第42回日本エンドメトリオーシス学会の参加報告の続き、第4回です。
シンポジウム2の「子宮筋腫の発生進展メカニズム」という基礎的な演題を小分けにして解説しています。
子宮筋腫が遺伝(=遺伝的要因)以外に環境(=環境因子)によって発症するメカニズムを解説しています。
正常の子宮筋層の細胞と比較すると、子宮筋腫の細胞はSATB2とNRG1という2つの遺伝子に異常があることがわかりました。
この2つの遺伝子はマスター制御遺伝子と呼ばれる、多くの遺伝子の発現を制御する司令塔のような役割がある遺伝子です。
繰り返すと、マスター制御遺伝子SATB2とNRG1の異常な命令によって、多くの遺伝子の作用により作られるタンパク質の量が変わり、子宮筋腫が発症します。
研究では、培養した細胞を用いた実験によってこのメカニズムを詳しく調べました。
培養した平滑筋腫細胞の細胞(=基礎医学的には細胞株といいます。)にこの2つの遺伝子を過剰発現させた(=細胞の中の遺伝子の数を増やした)ところ、この遺伝子を組み込んだ細胞(=細胞株)では、遺伝子(の命令でつくられるタンパク質)の作用により、①細胞の増殖に必要な細胞同士の信号(=シグナル伝達物質)の経路が活性化され、その結果、②細胞が増殖していることがわかりました。
ちなみに、このシグナル伝達物質の経路はWnt/β2-cateninとTGF-βと呼ばれています。
Wnt/β2-cateninというシグナルについては、過去ブログ(第64回日本生殖医学会報告 (4):不育症の基礎研究編:(2)子宮内膜のM2マクロファージ (前編):2019年12月8日)にも出てきますが、細胞の増殖や分化を制御するタンパク質であるWntの活性化と、それに続く、β2-cateninによって情報が伝達する経路の名称です。
ちなみに、Wntシグナルは羽のない(wingless)ハエの遺伝子の変化を調べた研究から発見されました。
TGF-βについては、過去ブログ(第34回日本生殖免疫学会・14th World Congress of the International Society for Immunology of Reproduction (2):肥満と精漿 (後編):2019年12月18日)にも出てきますが、細胞の増殖や分化を制御する代表的なタンパク質(=増殖因子:Growth Factor)です。
頭文字のTは分化(=Transform)という医学用語の頭文字で、トランスフォーミング増殖因子β(Transforming Growth Factor-β:TGF-β)というのが正式な名称です。
ちなみに、下流の遺伝子群としては、血管の透過性を増やす増殖因子やプロゲステロンの受容体(=プロゲステロンホルモンの作用に必要な細胞側の構造体)などの遺伝子発現が亢進し(=その結果、遺伝子の作用により作られるタンパク質も増え)ていました。
とりあえず、前半のお話はここまでです。
大変お疲れさまでした。
後半は、子宮筋腫には、筋腫のコブが硬いものと柔らかいものがあるという話です。
硬い話が続きます。