第3回日本不育症学会のWEB講演会の3回目の参加報告です。
教育講演(2)は国立成育医療研究センターの村島温子先生による「母性内科からみる抗リン脂質抗体症候群」というタイトルのご講演でした。
以下ご講演の内容を解説します。
抗リン脂質抗体症候群(APS)は自己抗体である抗リン脂質抗体(aPL)の存在下で血栓性疾患ならびに産科的合併症を生ずるもので、1980 年代になって登場した比較的新しい疾患概念です。
1956年に全身性エリテマトーデス(SLE:systemic lupus erythematosus)という膠原病と抗リン脂質抗体についての関連が初めて論文に発表されました。
1980年代になり、抗カルジオリピン抗体がSLE(全身性エリテマトーデス)の患者にみられることがわかってきました。
SLEの患者の約3分の1はAPS(anti-phospholipid antibody syndrome:抗リン脂質抗体症候群)を合併していますが、SLEなどの膠原病を伴わないAPSの患者も存在します。
SLEの有病率は年に5万人、抗リン脂質抗体症候群(APS)の有病率は年に5000人です。
APSはSLEなどの膠原病に合併する場合は二次性、単独の場合は原発性と分類されます。
APS分類基準の臨床症状としては、流産や子宮内胎児死亡の他、妊娠高血圧症候群や胎盤機能機能不全による早産などがありますが、これらの病態はまだ十分には解明されていません。
現在のところ、これらの病気の原因は胎盤内血管の血栓というシンプルな機序ではないことが明らかになってます。
自己抗体である抗リン脂質抗体(aPL)による絨毛組織の発達の障害や子宮らせん動脈のリモデリングの障害が流産や胎盤機能不全の病態として考えられています。
これらの機序は抗リン脂質抗体症候群(APS)にみられる胎盤機能不全や妊娠高血圧症候群に直接つながります。
妊娠中の標準的治療はヘパリンと低用量アスピリンですが、APSの診断はまだ難しく、難治性のAPSの診断・治療法の確立が今後の課題です。
講演の最後の標準的治療に抵抗性の症例に対する治療法や新しい検査のお話も大変ためになりました。
当院でも、今後新しい検査を導入する予定です。
成育医療センターで患者さまの同意を得て試みられている薬剤の投与についても、当院の倫理委員会を通して採用を考えていきたいものです。
新しい検査についてご興味のある方はクリニックにいらしてください。