日本生殖免疫学会は不育症の基礎研究領域の学会です。
今回は、第36回日本生殖免疫学会総会の参加報告の続き、第4回になります。
合同シンポジウム「抗リン脂質抗体症候群」の中から続きまして杉ウイメンズクリニックの杉俊隆院長先生の「不育症患者におけるanti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies(抗PS/PT抗体)とepidermal growth factor(EGF)の関係」を紹介させていただきます。
抗リン脂質抗体症候群という病気には2つの病型があり、そのひとつの周産期合併症を持つ抗リン脂質抗体症候群に不育症は属するというお話を前回の報告で解説させていただきました。
ホスファチジルセリン(Phosphatidylserine:PS)はこのリン脂質の成分のひとつ、プロトロンビン(prothrombin:PT)は血液凝固因子のひとつ、第II因子です。
不育症の原因のひとつに血液が固まりやすいという素因がありますが、凝固機能の異常は血液を固まらせる作用のある血液中のタンパク質(=凝固因子)の作用が低下していることが原因です。
これらの凝固因子には特定の共通領域があり、その領域は上皮細胞増殖因子(Epidermal Growth Factor:EGF)という増殖因子(タンパク質)の構造と似ています。
上皮細胞増殖因子(=上皮成長因子)はマウスの新生仔に投与すると成長を促進する物質として発見されたが、このタンパク質(EGF:Epidermal Growth Factor)は子宮内膜や胎盤の血管を増殖させる作用があります
不育症の患者が持つこのEGFに構造の似た領域に対する自己抗体は、凝固因子に作用することにより血液凝固異常を起こすとともに、EGFによる子宮内膜や胎盤の血管新生を阻害し、着床障害や流産を引き起こしている可能性があります。
自己抗体が存在する凝固因子としては、これまでの研究から第Ⅻ因子やプロテインSが考えられてきました。
今回の研究から、ホスファチジルセリン・プロトロンビン複合体(phosphatidylserine/prothrombin:PS/PT) に対する抗体(=ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体:抗PS/PT抗体)も同じような自己抗体の可能性があることが示唆されました。