5回シリーズで紹介している第40回日本受精着床学会の参加報告、3回目です。
3回目は着床不全についてのシンポジウムの内容を紹介いたします。
シンポジウム「Euploid 胚移植後の妊娠不成功に対する不妊治療を考える」は「Euploid 胚の移植後に着床しなかったらどうすべきか?」と「Euploid miscarriage をどうする。」の2つの演題でした。
「Euploid 胚の移植後に着床しなかったらどうすべきか?」は杉山産婦人科新宿の黒田恵司先生、
「Euploid miscarriage をどうする。」は名古屋市立大学産科婦人科教授の杉浦真弓先生のご講演です。
今回は、このシンポジウムの中から、杉山産婦人科新宿の黒田先生のご講演をご紹介します。
Euploid胚(=染色体異常のない良好胚)を移植することは“ほぼ着床する胚を移植している”ことになります。
しかし、日本人の場合、この良好胚の妊娠率は70.8%で、約30%の症例は着床しません。
良好胚の移植を複数回行っても着床しない反復着床不全の症例では、胚だけでなく子宮や母体に着床を妨げる原因があります。
医学用語に言い換えると、反復着床障害の原因として主に、子宮内環境の異常、胚の発育と着床の窓のずれ、母体の免疫異常があげられます。
子宮内環境の異常としては、前回の報告で話をした子宮内細菌叢(子宮内フローラ)や慢性子宮内膜炎(CE)が重要です。
慢性子宮内膜炎(CE)も原因の一つで、子宮鏡による子宮内の所見とともに、子宮内膜組織検査でミクロな病理所見も確認するためには大切です。
受精卵は移植免疫学的には”非自己:semi-allograft”であるため,移植される側(女性)の免疫担当細胞から攻撃を受ける(拒絶反応を惹起する)可能性があります。
通常は妊娠するときは、免疫反応が弱くなり、非自己である受精卵が子宮内膜に着床することができますが、これを免疫寛容といいます。
免疫異常による着床不全の診断は、血液中の1型ヘルパーT(Th1)細胞と2型ヘルパーT(Th2)細胞の比(Th1/Th2比)を用いて行っており、Th1/ Th2比が基準値以上を示す症例に対して、治療としては免疫抑制剤を用いています。
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黒田先生らは、反復着床不全に対して、甲状腺機能、免疫機構、子宮内環境の精査や治療を、OPTIMUM(Optimization of Thyroid function, Immunity, and Uterine Milieu) treatment strategyと名付けて、治療をしてきました。
検査項目は、子宮鏡検査と子宮内膜組織でのCD138免疫染色および子宮内細菌培養検査、血清Th1/Th2 細胞比、血清ビタミンD値、甲状腺機能検査などです。
検査および治療は、概ね、当院のものと変わりはないです。
報告では、OPTIMUM群、コントロール群それぞれの初回胚移植の妊娠継続率は、40歳未満、40歳以上の2つの集団で、OPTIMUM群が有意に高い数値でした。
また、2回目移植後の累積妊娠率も、40歳未満と40歳以上の2つの集団ともにOPTIMUM群が明らかに反復着床不全の女性の妊娠率を上昇させました。
9月より、黒田先生と同じ生殖補助医療(体外受精胚移植など)を行う不妊専門施設の指導的ポジションの医師(堀川医師)が非常勤として月に1回、不妊症セカンドオピニオン外来を行います(第1火曜日午後)。
当院に通院中の患者様で、体外受精を行っている施設の医師の目線でみたセカンドオピニオンを聞かれたい方は、こちらの外来をお勧めします。
また、他施設に通院中で結果の出ない方も、検査結果や治療経過を持参して、是非一度、不妊症セカンドオピニオン外来を受診してみてください。