8月29日月曜日は港区医師会三田地区講演会(27会)でした。
会場には港区美術部でも大変お世話になっている田中操先生と最近ちょくちょくとプライベートでもお会いする安田淳先生に続きまして到着は3番目です。
港区医師会長の坪田先生はいつもご多忙で、本日は別な重要公務にて欠席。
今回の27会は「乳がん治療の最新の話題」という演題名で、東京慈恵会医科大学乳腺・甲状腺・内分泌外科野木裕子准教授のご講演でした。
主に、乳がんの組織型の違いによる薬物療法の話で、薬物はホルモン(エストロゲン)に関係があるものから、乳がん細胞に固有の分子をターゲットにする薬、細胞周期に作用する薬物など幅広く、とても勉強になりました。
大変ありがたいことにお昼休みに、田中先生から代打で座長をお願いされまして、外来診療後、急ぎタクシーにて麻布十番となりました。
乳がんの治療は、ホルモン受容体(ERおよびPR)とHER2(human epidermal growth factor 2)という2つの主な分子をターゲットとしているものが有名で、がん細胞におけるこれら分子マーカーの有無によって乳がんはサブタイプに分けられ、個別的な薬物療法が行われています。
さて、ステロイドホルモン受容体であるestrogen receptor (ER)は、細胞の増殖などにも関与します。
詳しく説明するとエストロゲンにより活性化されるとERは乳癌細胞内の腫瘍形成を促進させる経路を活性化します。
ERの発現があれば(=エストロゲン受容体があれば)ホルモン受容体陽性と分類され、いわゆるホルモン療法が第一選択の治療となります。
ホルモン療法としては、GnRHアゴニスト(ご講演ではLHRHアゴニストでしたが、同じ物質を意味します)やSERMやアロマターゼ阻害剤が用いられます。
当院で不妊治療で用いられている、レトロゾールがアロマターゼ阻害剤で、クロミフェンはSERM(selective estrogen receptor modulator)というカテゴリーに入ります。
第二の分子標的はHER2(human epidermal growth factor 2)という、細胞表面に存在する糖タンパクで、細胞の増殖に関与しています。
この遺伝子が増幅又は過剰発現した乳癌はHER2陽性と分類され、抗体又は低分子阻害剤を用いた抗HER2療法の適応となります。
乳がんのサブタイプは、このようにホルモン受容体の有無、HER2陽性かどうかにより分類されますが、治療戦略はこの組織型とリンパ節転移の有無(詳しくは腋窩リンパ節)によって決定されます。
乳癌と診断される患者さんの90%以上は初回診断時に遠隔転移は認めず、腋窩リンパ節(=乳がんにおけるセンティネルリンパ節)への転移により進行度が評価されます。
さて、乳がんは卵巣がんと異なり、術前に組織型(=がん細胞の性質)を生検にて知ることができ、術前化学療法が進歩しています。
なお、術後の化学療法については主に、腫瘍内科の先生方が管理されているとのお話でした。
遠隔転移のない乳がん患者さんの薬物療法は原発巣のサブタイプとセンティネルリンパ節転移の有無によって決められ、ホルモン受容体陽性の乳癌にはホルモン療法を行い、HER2陽性の場合にはHER2をターゲットとした治療を行います。
なお、トリプルネガティブという組織タイプの乳癌は他の2つのサブタイプに比べると再発のリスクが高いです。
ちなみに、乳がんに関する有名な遺伝子変異にBRCA1/2遺伝子の病的変異がありますが、BRCAの機能が変異により損なわれている腫瘍に対しては、オラパリブというPARP阻害剤が使われます。
細胞の中の遺伝子DNAのダメージ修復の作用を持つ癌抑制遺伝子とPARP阻害剤の話はなかなか難しく、また、機会があれば解説いたします。
ながながとお疲れさまでした、
ペットの猫の成長で野木先生は医療の進歩をたとえてくださいましたが、スライドを比較してみると、グレーの毛並みのグレードもぐっと良くなってました。
当院は、これから母乳外来など乳腺領域へも診療の幅を広げて行こうとしています。
乳腺の硬結(しこり)など、乳がんの初期と鑑別が難しいような場合には、乳がんの専門病院に紹介することができるように、連携を構築していきたいものです。
愛宕神社のかわいらしい白い猫はFacebookにてもご覧になれます。
アリがたかるとこまるので、エサは床においてはいけないようです。
ゆかでなく、じかに手からなら、アリがたがるかな?