3月に開催予定でしたが、残念なことに中止となってしまいました「第15回日本生殖発生医学会」の(予習した内容の)報告の続きです。
基礎研究についての興味深い演題は「不妊治療における子宮再生医療の展望」というタイトルで、東京大学の大須賀教授のグループの廣田講師が指導された研究でした。
一言で説明すると、ネズミを用いた子宮内膜の再生についての基礎医学の発表です。
当院でも流産手術や人工妊娠中絶手術を行うようになりました。
これらの手術をすることにより、ときに子宮内膜に傷が付いてしまうことがありますが、子宮内膜が欠損した病態はアッシャーマン症候群と呼ばれ、着床障害を起こし不妊症になります。
また、先天的に子宮が欠損している(=ロキンタンスキー症候群)場合なども含めて、子宮性不妊症にカテゴライズされます。
(手術などにより)後天的あるいは先天的に子宮内膜が欠損した(する)場合、子宮内膜を再生することによって子宮のもつ「着床」という大事な機能を回復させることが可能になります。
ちなみに、当院での手術はMVA法という最新の方法で行っておりますが、この方法ですと子宮内膜に傷が残る可能性はほぼゼロです。
当院の流産手術、人工妊娠手術は、麻酔については①全身麻酔あり②局所麻酔のみ、前処置については①前処置あり②前処置なしとすべてのプロトコールでの手術法が可能です。
手術には痛みが伴いますが、痛みにとても神経質な患者さまには、プロポフォールという最新の麻酔薬を用いた麻酔法による全身麻酔で手術を行うため、ドルミカムなどによる従来法と比較して、無痛であるだけでなく麻酔からの覚醒が早いのが特徴です。
また、当院では万全を期し、術者(=院長)に加えて、麻酔は専門の麻酔科医が担当する総合病院、大学病院と同じスタイルで手術を行っています。
口コミサイトにも当院の手術に関しての口コミがチラホラと散見されるようになりましたが、局所麻酔の場合でも2種類の鎮痛剤を用いた方法で痛みを取るため、手術中の痛みを訴える患者さまはとても少ないです。
宜しければ、患者さまの口コミもご覧くださいませ。
さて、本題に戻ります。
今回は、ドナーマウスの子宮の組織から、細胞と細胞の外側にあり組織を構築するのに必要なタンパク質(=細胞外基質)を一緒に採取し、細胞成分を除去するという処置を加えた後に、レシピエントマウスの子宮へ移植するという動物モデルで実験を行いました。
わかりやすく説明すると、ネズミ(=ドナーマウス)から子宮を摘出し、摘出した子宮組織に処理を行い細胞成分を除いた残りのタンパク質だけを、別のネズミ(=レシピエントマウス)の子宮に移植するという動物実験です。
結果、移植後28日目には、2x5mmの細胞を除いた移植組織片の中に、細胞を含み正常な組織構造をもつ子宮組織が再構築され、更に、この部位での妊娠が可能であったことから、この子宮内膜は正常な機能を持つことが示されました。
このモデルを用いた研究を応用して、子宮内膜の再生には「STAT3」という遺伝子(で細かく分類すると転写因子)が重要な役割をもつことがわかりました。
STAT3という遺伝子は、細胞にシグナルを導入する(=信号を伝える)ための必須の転写活性化因子(=転写因子)で、組織修復などに関係していることが知られています。
なお、STATは、Signal(=シグナル) Transducer(=伝える) and Activator(=活性化) of Transcription(=転写)の頭文字です。
過去のブログにもありますが、わかりやすく説明すると、「転写」とはDNAからRNA(正確には、メッセンジャーRNA:mRNA)が作られることで、mRNAからアミノ酸が作られ(その結果、タンパク質が作られ)ることは「翻訳」と呼ばれます。