WEB開催となってしまいました第19回日本再生医療学会の参加報告の最終回です。
最後にご紹介するのは、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室の「ヒト羊水幹細胞を用いた脊髄髄膜瘤に対する新規胎児治療戦略」という演題で胎児治療に関する基礎的研究についての話です。
脊髄髄膜瘤というのは脊髄の外側の膜が体表から瘤(こぶ)のように突出して、羊水腔の中に飛び出てしまう病気で、脊髄の細胞が障害され神経系に後遺症が出ることがあります。
難しく説明すると、胎児の神経管の閉鎖に障害(=神経管閉鎖不全)が起きて、羊水に暴露する(=接触する)と神経組織は化学的に変性します(=障害を受けます)。
また、子宮の壁と接触しても物理的に損傷をします。
脊髄髄膜瘤による神経障害は、残念なことに不可逆性でまだ根本的な治療法はありません。
ちなみに、葉酸は胎児の神経管閉鎖不全が起きるのを防ぐ作用があります。
今回の研究では、脊髄髄膜瘤のあるネズミ(=モデルマウス)を作成し、この実験モデルのネズミを使って行いました。
このネズミにヒト羊水幹細胞(=羊水中にある幹細胞)を用いた治療を行った結果、①脊髄髄膜瘤の体積が縮小し、②髄膜瘤の中の炎症性サイトカイン(サイトカインに関しては過去ブログを参照して下さい。)が減少し、③炎症も改善したことが示されていました。
羊水幹細胞は羊水検査を行ったときに採取し、羊水から分離培養されたものを実験に用いました。
炎症性のサイトカインおよび炎症は減少しましたが、一方、HGF(hepatocyte growth factor:肝細胞増殖因子)という肝臓の細胞などを増殖する因子(タンパク質)は増えており、HGFを介したメカニズムにより、脊髄神経細胞は保護されることが示されていました。
HGFというタンパク質は子宮内膜や卵胞液中にも存在し、子宮内膜や卵巣の細胞もこの増殖因子の作用により増殖します。
生体肝臓移植で有名なように、肝臓は部分的に切除しても再生する能力が非常に強い臓器です。
卵巣も子宮内膜も月経周期により増殖を繰り返します。
HGFに関しては過去ブログ(2019年2月25日)もご参照下さいませ。
なお、羊水幹細胞から分泌されたHGFは脊髄に存在するその受容体(c-Met)を介して、この作用を起こすことも証明されていました。
今回の実験から、ヒト羊水幹細胞(hAFSCs:human Amniotic Fluid Stem Cells)の羊水腔内注入療法は、脊髄髄膜瘤に対する低侵襲な新しい胎児治療になる可能性が示唆されました。