先日、” 腹壁破裂の論文「Three-dimensional ultrasound is useful in diagnosing the fetus with abdominal wall defect.」を若かりし頃、書いたことがある(正確には原稿は赤ペンで真っ赤になって返ってきましたが)。” とお話しました。内容は当時導入され始めた三次元超音波を使って腹壁破裂の診断をしたというもので、実際に三次元エコーで診断をされたのは母校の超音波グループの小林浩一先生(現在、東京山手メディカルセンター副院長)だったと思います。
「腹壁破裂」聞きなれない言葉ですので、少し説明が必要です。今日はその話。
腹壁破裂(Gastroschisis)とは、赤ちゃんの腹壁(おなかの壁:一番外側は皮膚、一番内側は腹膜)に穴があいているため(腹壁形成異常)に、本来おなかの中(腹壁)にあるはずの臓器(小腸・胃など)がおなかの外に飛び出した状態で生まれる病気です。 低出生体重児(未熟児)に発生することが多く、出生後すぐに緊急手術をして脱出臓器をお腹の中に戻すか、皮膚または人工膜で脱出臓器をおおわなければ早期に死亡します。重篤な合併症を有することが少ない病気のため、超音波検査により出生前に診断され、手術の準備をしたうえで出産(帝王切開)させ、ただちに赤ちゃんの治療を行うことが増えてきたため予後が良いです。2016年のレビュー(O’Connell RVらの「Gastroschisis: A Review of Management and Outcomes」を斜め読みしてみるとおよそ15パーセントの児を除いて予後が良いとありました。
母体血液中のAFP(α-fetoprotein) というたんぱく質の値も高いですが、超音波診断が決め手になります。
腹壁形成異常には、臍帯ヘルニアという病気もあり、こちらは心臓の異常や単一臍帯動脈(臍の緒の動脈の数の異常)などを伴うので重篤な合併症を有することが多い病気です。