第40回日本エンドメトリオーシス学会の報告、(3)です。今日は、学会2日目、シンポジウム3「子宮内膜症・子宮腺筋症の病因・病態―最新知見」で得た知見のご紹介。
このシンポジウムは今回の学会の中でかなり興味のあったシンポジウムでした。学問(basic science : 基礎医学)は楽しいです。座長は杉野法広山口大学教授でした。
演題はどれも興味深く、
①Shanghai Univ.のSun-Wei Guo先生の講演は「Deep Endometriosis: How does It Come into Being? How to Better Diagnosis」。
Deep Endometriosis(深部子宮内膜症)の新しいモデル動物(ネズミです。)の紹介、面白かったです。
②National Cheng Kung Univ. (Taiwan)のShaw-Jenq Tsai先生の講演「Targeting Anthrax Toxin receptor 2 Ameliorates Endometriosis Progression」。
低酸素状態によるストレスがANTAXR2というAnthrax Toxinの受容体のヒストンH3のリジンが変化して、子宮内膜症が進展する話でした。
わかりやすく言うと、酸素が足りないとAnthrax Toxinという物質が作用する場所(Anthrax Toxinの受容体 =ANTAXR2)、のDNAの骨格の部分のアミノ酸(ヒストンH3のリジン )、が変化して子宮内膜症になるということです。
この演題に対しては、防衛医科大学校の古谷健一教授が流暢な英語で質問されていました。
海外からの演者の先生の英語のレクチャーも知的好奇心を刺激しますが、日本人の演者の先生方の演題も素晴らしかったです。
特に、
③富山大学産科婦人科学教室の吉野修准教授の腸内細菌叢のお話がとても興味深かったのでご紹介します。
富山に赴任された吉野准教授、東大産婦人科大須賀グループの門下生です。お元気そうでした。
結論からいうと、この話は子宮内膜症患者の腸内細菌叢(腸内フローラ)では制御性T細胞誘導に重要な酪酸産性菌が減弱しているというものでした。
制御性T細胞(regulatory T cell, Treg = Tレグ細胞ともいいます)は免疫を担当する細胞です。
T細胞のTは胸腺(Thymus)のTで、胸腺を免疫に関わる臓器です。
制御性T細胞は免疫応答機構において、過剰な免疫応答を抑制する(ブレーキ役=負に制御する)ための重要な役割を果たします。
わかりやすく説明すると、Tレグ細胞は自己免疫疾患や炎症性疾患、アレルギー疾患などを引き起こす過剰な免疫の異常を抑制し身体を守る役割を担っています。
近年、Tregの減少が子宮内膜症の発症と関係があるという論文が散見されていますが、腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れがこのTregの減少を引き起こしている( = 過剰な免疫反応を抑えることができなくなっている)可能性が示唆されたわけです。
吉野先生は、1月から北里大学に移られたようです。
演題発表後に、学会場にて、簡単に質問させていただきましたが、ご丁寧に回答して下さいました。
研究の要点のみをかなりわかりやすく書いたつもりですが、難しかったでしょうか?
難しいと感じられた方は、チーズをどうぞ。
酪酸、チーズに含まれる成分です。