2019年のノーベル医学生理学賞は細胞が酸素欠乏に対応する「低酸素応答」のメカニズムを解明した米ジョンズ・ホプキンス大のグレッグ・セメンザ教授ら米英3研究者に授与されることになりました。
このメカニズムに関与する物資は低酸素誘導因子(hypoxia indusible factor:HIF)といって、細胞に酸素が不足すると誘導されてくるタンパク質です。
正確には、HIF-1αが低酸素下で、(遺伝子発現が)誘導されて(発現)量が増加します。
ちなみに、HIFは細胞に構成的に(=恒常的に)存在するHIF-1βと低酸素によって誘導されたHIF-1αの二つが結合(=二量体を形成)して、作用します。
HIF-1αは、1992年にグレッグ・セメンザらにより発見されましたが、構造が似たHIF-2αやHIF-3αも仲間です。
がんを抑制する遺伝子産物(=タンパク質のことです)がHIF-1αの分解に関わっていて、酸素が十分にある状態ではこのタンパク質がHIF-1αと結合して、HIF-1αを速やかに分解し、低酸素応答(低酸素状態における反応)を起こさないことも明らかとなりました。
HIFは、転写因子といって、他の遺伝子の発現(=遺伝子からタンパク質が合成されること)を制御する作用があり、腎臓での赤血球の増殖の促進に関与するエリスロポエチンというホルモンや、私が大学院のときに卵巣における、その意義について研究していたNOS(一酸化窒素合成酵素)などのタンパク質の(発現)量の制御にも関与しています。
がん細胞は、低酸素状態において血管を形成(=血管新生)し、自らを効果的に増殖させていることが知られています。
「彼らの発見は貧血やがん、その他多くの病気と闘うための有望な戦略への道を開いた」と研究成果は讃えられています。