11月20日から、随分とあいだが空きました。
奈良にて開催されました、日本生殖免疫学会・World Congress of the International Society for Immunology of Reproduction(国際生殖免疫学会)の参加報告の続き(後編)です。
大変お手数ですが、11月20日のブログ、前編を復習されてから後編を読んでいただくと理解が深まります。
「Obesity Alters Seminal Vesicle Fluid Composition and Signaling Capacity」
というタイトルの講演をできるだけ、わかりやすく解説してみます。
肥満では、インスリンというホルモンが高いこと、男性の場合は精巣の機能が低下することがあること、予備知識です。
精液中の液体成分(=精漿)は、受精卵が通過する卵管が分泌するタンパク質に影響を与え、子孫に糖尿病や高血圧などの病気をもたらす可能性がある、面白いですね。
さて、解説です。
妊娠前や妊娠中に親が経験(=体験)した行動が、子供の人生(の軌跡)に影響を与えることが知られています。
近年、特に、男性の肥満(の予防)が胎児や子孫(=子供)の健康に影響を与えることがわかってきました。
端的に言うと、
「肥満の父親から生まれた子供はやはり肥満になる。」
ということです。
「カエルの子はカエル」ということわざもあります。
このことを、動物モデル(=ネズミ)を用いた実験で実証した研究です。
この理由は当然ながら、父親由来の精子(の遺伝子情報)が胎児(の発育)に影響与えるからです。
ところが、精子に加えて、男性の精液(正しくは、精漿)が子孫の表現形(痩せている、あるいは、肥っているというような個体の性質のこと)に「間接的に」影響与えることがわかりました。
精漿というのは、精液中の精子を除いた液体成分のことです。
ちなみに、血漿は血液から血球成分(赤血球、白血球、血小板など)を除いた成分のことを言います。
精漿(=精嚢液)は精巣の近くにある精嚢から分泌され、精液全体の約7割を占め、精子に運動のエネルギーを与える役割をしています。
「間接的に」という意味は、精漿が女性の卵管の免疫環境を変化させるという意味です。
医学的な専門用語を使って説明すると、「免疫環境を変化させる」ということは「制御性T細胞の作用を変化させる」ということになります。
「制御性T細胞」、少し難しい単語ですね。
「制御性T細胞」については過去のブログを参照してください。
2019年1月19日のブログ(日本エンドメトリオーシス学会の参加報告)の、「子宮内膜症と制御性T細胞」のところで、詳しく説明してます。
「制御性T細胞は免疫応答機構において、過剰な免疫応答を抑制する(ブレーキ役=負に制御する)ための重要な役割を果たします。
わかりやすく説明すると、Tレグ細胞は自己免疫疾患や炎症性疾患、アレルギー疾患などを引き起こす過剰な免疫の異常を抑制し身体を守る役割を担っています。」
以上、2019年1月19日のブログより引用。
彼らの、動物モデル(ネズミです。)を使った研究によると、
父親ネズミに高脂肪の食事を与えて肥らせると(=父親の肥満は)、
①精嚢の重量に変化は認めませんでしたが、
②精子の伝達能力を変えて、
③精漿中のいくつかの細胞情報伝達物質であるサイトカイン(特にTGF-βスーパーファミリー:細胞増殖・分化を制御することが知られている(分泌性の)タンパク質のグループ)に変化が起こり、
④その結果、卵管の免疫環境を変化させる(=卵管の制御性T細胞の作用を変化させる)
ことがわかりました。
最初に戻りますと、
精液中の液体成分(=精漿)は、卵管の免疫環境を変えるため(=卵管が分泌するタンパク質に影響を与えるため)、子孫に糖尿病や高血圧などの病気をもたらす可能性がある。
という発表でした。
とても興味深いご発表にて、講演終了後、いくつか質問させていただきましたところ、先生はご丁寧に回答くださりました。
イケメンの先生との写真、宜しければ、Facebookもご覧下さい。
次回の学会参加報告は、奈良旅行記です。