3月に開催予定でしたが、残念なことに中止となってしまいました「第15回日本生殖発生医学会」の(予習した内容の)報告の続きです。
最後にご紹介するのは臨床の演題で、治療抵抗性の排卵障害の患者さまに副腎皮質ステロイドを用いて、結果的に、生殖補助医療により成熟卵子を得ることに成功した国際医療福祉大学産婦人科の河村和弘教授らの発表です。
一般的に排卵障害の患者さんには、まず、排卵誘発剤の内服薬を投与します。
当院でも、クロミッド(クロミフェン)やフェマーラ(レトロゾール)などの排卵誘発剤が処方されています。
排卵誘発剤を内服投与しても卵胞が発育しない場合には、排卵誘発剤(=ゴナドトロピン製剤)を注射します。
近年は、ペン型の自己注射のキットも、広く知られるようになっています。
ちなみに、「ゴナドトロピン」というホルモンについては、2018年のブログになりますが、過去ブログ(2018年10月1日、2018年10月6日)でも説明していますので、そちらもご覧ください。
残念ながら、ゴナドトロピン製剤(=卵胞刺激ホルモン:FSH)を用いても卵巣が反応せず、卵胞が発育しない(=卵が育たない)患者さまもいます。
高ゴナドトロピン血症(=血液中にゴナドトロピンが高濃度)であるにもかかわらず性腺(=gonad)の形成が悪い病態をゴナドトロピン(Gonadotropin)抵抗性卵巣症候群(resistant ovary syndrome:ROS)と言います。
ROSは早発卵巣不全(POI:premature ovarian insufficiency)とおおむね同じ病態ですが、早発卵巣不全とは異なり、卵巣が線維組織に置き換わってなく、少しですが胞状卵胞と呼ばれる小さな卵胞のモト(=卵胞が発育していくと、ゴナドトロピンに反応するようになり、最終的に排卵する可能性がある卵胞)が存在しています。
この病態は20代では1000人に1人、30代では100人に1人の割合でみられ、ウィルス感染や代謝異常、あるいは、医原性の要因により発症することが知られていますが、非常に治療抵抗性で確立させた治療法はありません。
X染色体に関する遺伝子異常でもこの病態になることが知られており、ターナー症候群(=染色体が45本で性染色体はX染色体1本しかない遺伝子疾患)が有名ですが、近年、それ以外のいくつかの遺伝子の異常でも発症することがわかってきました。
また、ROS(=resistant ovary syndrome)は自己免疫が原因となっていることもあります。
多くの種類がある自己抗体の中でも、FSH受容体(=FSHが結合し、ホルモンの作用が生じる細胞の表面にあるタンパク質)に対する自己抗体(=抗FSH受容体抗体)がよく知られています。
一般的に、免疫抑制作用のある副腎皮質ステロイドを用いると、自己免疫性疾患が改善することがあります。
演題では、この原理(=薬理作用)に基づいて免疫抑制作用のあるステロイドをROSの患者に用いたところ、卵胞が発育し排卵誘発剤に反応するようになり、体外受精(=採卵)によって成熟卵子を得ることに成功したと報告していました。