みなさん、こんにちは。
今回は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)の感染症を持つ妊婦さんについてのお話をさせていただきます。
ATL(成人T細胞白血病)は原因が特定された数少ない白血病で、感染経路は母乳を介した母子感染と精液中のリンパ球を介した性行為による感染です。
HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)はATL(成人T細胞白血病)の原因となるウイルスですが、ATLを発症するのは感染者のごく一部であり、またすぐに発症するわけでもありません。
HTLV-1を持っていて、ATLを発病していない人をHTLV-1のキャリアと呼びます。
ATLは感染者の分布には地域性があり、国内では沖縄、南九州でキャリア率が高いです。
当院では、妊婦健診の2回目でHTLV-1抗体スクリーニング検査を採血で実施しています。
母子感染は主に経母乳感染であり、長期に母乳栄養をしていた児への感染率は18%、人工栄養によっても授乳以外での経路での感染率は3%あると報告されています。
母子感染予防の観点から①人工栄養、②冷凍母乳栄養(搾乳した母乳を-12℃、12時間冷凍し感染したTリンパ球が不活化された後に解凍をして与える)、③短期間(生後90日まで)の母乳栄養(母体から移行した抗体が母乳中に存在するとされる短期間だけ母乳栄養を行い、その後は人工栄養を行う)の3つから栄養方法を選択する必要があります。
ただし、2017年8月に②・③は母子感染予防効果の科学的根拠が不十分として積極的に行わず、原則として完全人工栄養を進めるよう改められました。
完全人工栄養を選択した場合、初乳も与えてはならないため分娩後に内服薬の使用により乳汁分泌を止めます。
私が以前、周産期センターで働いていた際、分娩後の母親に内服薬を持っていったところ
「これを飲んだらもう授乳できないんだなあ」
と呟いた方がいたのを、数年経った今でも鮮明に覚えています。
出産までに外来にて医師や助産師らと面談を何回か重ねながら妊婦自身が意思決定できるよう支援していても、母乳をあげられない罪悪感や周囲へ知られることの不安を抱くのだと思います。
当院にて検査結果陽性が確認された妊婦さんと出会ってはいませんが、キャリアであることが判明した場合、HTLV-1の母子感染予防について十分な理解を得られ、心理面への支援を継続的に受けられるよう心がけていきたいものです!