WEB開催された第35回日本生殖免疫学会総会の参加報告の続きです。
生殖免疫学会というのは、不育症・習慣流産についての基礎的な学問についての学会です。
まつみレディースクリニック三田では不育症・習慣流産の治療に力をいれています。
東京大学大学院医学研究科生殖・発達・加齢医学講座、永松研究室の柳澤先生の発表「妊娠高血圧症候群において酸化ストレスはNrf2シグナルを介してオートタキシン(ATX)の発現を促す」の解説の続きです。
永松研究室では、妊娠高血圧症候群のひとつである妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)には胎盤でのATX-LPAシステムが潜在的に関与していることをこれまでに明らかにしてきました。
登場する専門用語の解説です。
オートタキシン(ATX)はリン脂質を分解する(=代謝する)タンパク質(=酵素)で、リゾホスファチジルコリン(LPC)というリン脂質から(=を分解して)リゾホスファチジン酸(LPA)を産生します。
リゾホスファチジン酸(LPA)は、脂質メディエーター(メディエート:mediate=伝達する)のひとつで、さまざまな生理学的作用があります。
Nrf2シグナルは,生体の酸化ストレス防御機構において中心的役割を果たしているタンパク質(=転写因子といい、DNAに結合します)で、さまざまな生体防御に関わる遺伝子群を(DNAに結合することにより)活性化しています。
この研究では、さらに妊娠高血圧症候群に酸化ストレスが関与しているかを調べています。
これまで永松研究室では、妊娠経過に伴って(=妊娠週数が上がるにつれて)オートタキシン(ATX)の血中濃度は増加して、産褥に伴い、血清濃度は非妊娠時に戻ることを解明しました。
胎盤における過剰な酸化ストレスは胎盤の血管の内皮細胞を傷害し、妊娠高血圧症候群(HDP群)の誘因(=原因)となりうることが知られています。
今回、妊娠高血圧症候群(HDP群)における酸化ストレスとオートタキシン(ATX)の関係を調べるために、妊娠高血圧症候群(HDP)の患者グループとコントロール(=正常な集団)との2つ(の集団=グループ)で血中のオートタキシン(ATX)濃度を比較してみました。
OSI(酸化ストレス:oxidative stress index)はdROMs/BAP(dROMsとBAPとの比)を表す指標(index)です。
dROMs/BAPに関しては、過去ブログ(2020年10月19日、2020年10月27日)もご覧ください。
血液検査の結果から、妊娠高血圧症候群(HDP)のグループではコントロール(=正常な集団)と比較して、有意に酸化ストレス(=OSI)が高く、OSIと血中のATX濃度は有意な正の相関をしていることがわかりました。
つまり、妊娠高血圧症候群の妊婦は、血圧が正常な妊婦と比べて、①酸化ストレスが強く(=OSIが高く)、②酸化ストレスが強い(=大きい)妊娠高血圧症候群(HDP)の妊婦は血中のATX濃度も高いという結果でした。
このような臨床検体(=患者さんの血液)を用いた結果を踏まえ、培養細胞を使った実験を行いました。
ここからは、基礎実験の話になります。
次回、最終回に続きます。