先週の火曜日はお忙しい中わざわざ東京都済生会中央病院の海老原全病院長がクリニックにご挨拶に来てくださいました。
海老原先生は慶応義塾大学皮膚科学教室のご出身で、ご専門はアトピー性皮膚炎とのことです。
コロナ禍でお忙しいところわざわざクリニックにいらしてくださるとのことで、クリニックの診療と関係ありそうな海老原先生の関連する文献を話のネタに少し斜め読みしましたので、今回はその話です。
クリニックに新しく取り入れた子宮内フローラ検査は子宮内のマイクロバイオーム(微生物叢を形成する微生物の集合ゲノム)、わかりやすくと微生物の集団の遺伝子群、を次世代シークエンサーという医療機器によって解析する最新の検査です。
子宮内フローラ検査で解析をすると不妊症の患者さんの子宮内フローラには、ラクトバチルス(=乳酸菌)が少ないということがわかりました。
着床不全の治療はまだまだ確立されてはいませんが、抗生剤やラクトフェリンを服用することによって子宮内フローラのマイクロバイオームをラクトバチルス優位(=正常な子宮内細菌叢の状態)にすることが着床不全の改善つながる可能性があります。
ラクトフェリンは多くの哺乳動物の乳に含まれています。
勿論、ヒトの母乳、特に出産後数日の間に多く分泌される初乳に最も多く含まれており、赤ちゃんの健康維持のためにも必要な成分であると考えられています。
ラクトフェリンは鉄に対する親和性の強い(=結合する力の強い)タンパク質(糖タンパク質)で、母乳以外にも唾液や涙、鼻汁など体内の外分泌液、粘膜液、白血球の一種である好中球に存在し、外部から進入する細菌やウイルスからの攻撃を防ぐ作用があります。
さて、マイクロバイオームと皮膚科とのお話ですが、皮膚は生命体の表面を覆うバリアとして外部環境と接していますので、当然ながら、多種多様な微生物が皮膚には存在しています。
皮膚の状態によって、例えば①湿った皮膚ではコリネバクテリウムが、②脂漏性の皮膚にはニキビと関係の深いプロピオニバクテリウム(アクネ菌)が豊富に存在しています。
また、皮膚の乾燥部位には他の状態の皮膚と比較して、最も多種多様な菌を認めますが、菌の総量は少ない傾向にあります。
ちなみに、アトピー性皮膚炎のマイクロバイオームを解析すると正常な皮膚よりも黄色ブドウ球菌という細菌のゲノムが多い(=菌の量が多い)ことがわかりました。
このように正常な皮膚でもその性状の違いによって、また、正常な皮膚とアトピー性皮膚炎の皮膚では、皮膚に存在する細菌叢(=細菌の種類)に違いがあります。
黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎の皮膚に多いのは原因か結果かわかりませんが、解析技術の発展に伴い、培養検査で見つからなかった新たな微生物群の病態への関与が明らかになる可能性もあり、今後の研究の進展が注目されています。
オシャレな眼鏡をされている海老原先生からは、有難いことにクリニックのスタッフにカラフルなクッキーの詰め合わせのお土産も頂きました。
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