第36回日本生殖免疫学会総会の参加報告、第3回です。
日本生殖免疫学会はクリニックが診療に力を入れている不育症の基礎的研究領域になります。
合同シンポジウム「抗リン脂質抗体症候群」の中から、東京大学医学系研究科産婦人科学講座永松健准教授の「Obstetric APSの免疫学的病理機序と治療法における課題-抗血小板/抗凝固療法の先へ」を解説します。
抗リン脂質抗体症候群(APS:anti-phospholipid antibody syndrome:)は大きく2つの病型に分かれます。
1つは流産や胎盤機能障害などの妊娠合併症がメインのobstetric APS(oAPS)で、もう一つは血栓症がメインのthrombotic APS(tAPS)です。
低用量アスピリンとヘパリンの併用による抗血小板/抗凝固療法は本来は、血栓症がメインの抗リン脂質抗体症候群(tAPS)における血栓形成の抑制を目的とした治療法ですが、これまでにoAPSに対しても一定の治療効果が確認されてきました。
しかし、妊娠合併症がメインの抗リン脂質抗体症候群(oAPS:obstetric APS)の中には低用量アスピリンとヘパリンの併用療法を行っても十分な治療効果が得られない難治性の症例が存在します。
病原性のある自己抗体が免疫学的な機序で胎盤機能障害を起こすことが、oAPS(妊娠合併症がメインの抗リン脂質抗体症候群)の発症するメカニズムであると考えられています。
従って、診断基準の3つの抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体および抗β2GPI抗体)のすべての項目が陽性の場合などでは、スタンダードな抗血小板/抗凝固療法に追加して免疫学的な治療法を加えることが有効なこともあります。
免疫学的治療としては、これまでにステロイドや免疫グロブリンなどが試みられてきました。
近年、全身性エリテマトーデスの合併があるような場合などではヒドロキシクロロキンやプラバスタチンも新たな追加治療薬の候補として注目されてきています。
ヒドロキシクロロキンは抗マラリア剤で全身性エリテマトーデスの治療薬でもあり、海外では関節リウマチの治療にも用いられています。
自宅に帰り論文を斜め読みしてみましたが、ヒドロキシクロロキンは炎症を軽減させ、これらの反応に関わる補体というタンパク質(正確にはC5aという名称の補体第5成分の断片)の血中濃度も低下します。
プラバスタチンについては、同じ東京大学産婦人科の稲葉先生がご研究されていますので、機会があればまたご紹介します。