先日、流産手術後のRPOCを疑わせる患者さまが来院されました。
Retained products of conception(RPOC)とは妊娠終了(流産、人工妊娠中絶、早産、妊娠満期での分娩)後に胎盤や胎児組織が遺残するものと定義されます。
日本では胎盤ポリープや胎盤遺残といった名称で呼ばれることもあります。
Retained products of conception(RPOC)は産褥に大量出血を引き起こすものがありますが、無症状で自然に消失するものもあります。
治療法は、待機療法の他、子宮内容除去術、子宮鏡下手術などの手術療法やこれに子宮動脈塞栓術(UAE:Uterine Artery Embolization)を併用することもあります。
前述のように、Retained products of conception(RPOC)は、待機療法のみで寛解することもありますが、一方で大量出血が起きた場合には子宮摘出を余儀なくされることもあり、その場合には妊孕性(妊娠する能力)が損なわれる可能性があります。
従って、Retained products of conception(RPOC)は病理組織診断にて絨毛組織を認めることで確定診断されますが、組織診断の前に臨床的に診断し治療方針を決定する必要があります。
RPOCは比較的に新しい疾患概念ですが、概ね、妊娠22週未満の流産手術あるいは人工妊娠中絶手術後の場合には、自然脱落にて排出する症例では3か月程度の時間を要し、妊娠22週以降では5カ月程度の経過が自然排出に必要になることが多いです。
繰り返しになりますが、このように待機療法はRPOCに対する有効な治療選択肢で、3~5カ月の待機期間が目安です。
性器からの大量出血などを認める場合には、子宮動脈塞栓術にて子宮への血流を減少させてから、待機療法を選択することもあります。
積極的治療としては、子宮鏡下手術が推奨されますが、同じようにこの手術に子宮動脈塞栓術を併用することがあります。
このように、RPOCは患者の病態や予後が異なるため、病変の十分な評価を行い個々の症例に応じて治療方針を決定していくことが重要です。
ちなみに、このRPOCの病変の評価については、東京大学周産期グループが英文の論文を発表しています。
「Ultrasonographic vascularity assessment for predicting future severe hemorrhage in retained products of conception after second-trimester abortion:Naoya Akiba et.al: J Matern Fetal Neonatal Med. 2021 Feb;34(4):562-568. 」
この文献によると、RPOCを病変の筋層への浸潤の程度でType1からType3にカテゴライズしてみると、Type3、すなわち、子宮筋層の半分以上の深さまで病変からの筋層への血流が豊富な場合には、およそ66%(=4症例/6症例)の割合で大量性器出血が起きるとのことでした。
一方、筋層への病変の浸潤が浅い(=Type1あるいはType2)の場合には、7.7% つまり13症例中の1症例でのみ、大量性器出血が起きたとのことです。
このように、ときに大量出血などのイベントが発生する可能性があるRetained products of conception(RPOC)について、当院では、子宮鏡なども用いて臨床的に診断をしています。
当院のみならず他院での流産手術あるいは人工妊娠中絶手術後、あるいは分娩後に性器出血が持続するような患者さまは、是非、当院を受診されてください。