木曜日担当の藤井です。
本日は気になる論文のご紹介を致します。
母体血中の胎児由来のRNAを解析することで、妊娠高血圧症候群などの周産期合併症をより高精度で予測できるかもしれない、という非常にインパクトのある論文となります。
この論文は、2022年2月、科学誌 Natureに掲載されました(Early prediction of preeclampsia in pregnancy with cell-free RNA Nature volume 602, pages689–694:2022) 。
「NIPT」について聞いたことがある方は少なくないのではないでしょうか?
Non Invasive Prenatal Testingの略で、いわゆる新型出生前遺伝学的検査のことです。
母体血液中に漏出した胎児(絨毛)由来のcell free DNA (細胞外DNA)を解析することで胎児の染色体異常を高い精度で検出できる検査です。
日本においても2013年以降導入されています。
一方、今回ご紹介する論文は母体血中のcell free RNA (細胞外RNA)に関する研究となります。
DNAは体の設計図であり基本的には体の各細胞で一定であり不変のものとなりますが、RNAはDNAから臨機応変に作られる遺伝情報となります。
つまりRNAの発現は体の状況に合わせて変化しており、胎児由来のRNAを解析することで、リアルタイムで赤ちゃんの情報が得られる可能性があります(もちろん解析に多少の時間を要しますが)。
本論文では妊娠初期の母体血液中のcell free RNAを解析することで、妊娠中期以降の妊娠高血圧症候群の発症を予測できるということが報告されています。
本論文を執筆したスタンフォード大学の研究グループはこれまでにもcell free RNAに関する様々な研究報告を行っています。
これまで赤ちゃんの情報は、胎児心拍や胎児超音波でしか得られなかったのが、
「cell free RNAを利用してより客観的で精度の高い情報が得られるような日が遠くない将来実現するかもしれない」、そんなことを予感させる論文となります。
本研究のように医療分野における何らかのブレイクスルーに関わることができれば、との思いから、現在私は主に成育医療研究センターにおいて共同研究員として勤務しておりますが、まつみレディースクリニックにおいても木曜日を中心に勤務しておりますので、宜しくお願い致します。