シリーズで紹介している11月に高知で開催された第37回日本生殖免疫学会参加報告、第3回は、会場で我々のグループが発表した内容です。
繰り返しになりますが、大変有難いことに、生殖領域の基礎医学と臨床研究を領域としている日本生殖免疫学会で口演をする機会に恵まれました。
抄録を提出してから学会発表するまでに時間があるため、考察が加わり、発表はよりわかりやすい内容になっています。
演題名:流産既往女性における抗リン脂質抗体と凝固線溶系との相関に関する検討ー従来の抗リン脂質抗体とネオセルフ抗体との比較―
〇松見泰宇、藤井達也、永松健
【目的】
抗リン脂質抗体症候群(APS)の臨床診断基準に血栓症と産科合併症がある。APSの臨床症状の共通背景に病原性自己抗体による凝固線溶系の変化があるとされている。
近年、HLAクラスII分子と複合体(β2GPI/HLA–DR)を形成したβ2-糖タンパク質I(β2GPI)に対する自己抗体(ネオセルフ抗体)が、APSに関連する新規の自己抗体となることが報告された。
本研究では流産既往のある女性について従来の抗リン脂質抗体およびネオセルフ抗体と凝固・線溶マーカーとの関係について検討した。
【方法】
流産既往のある女性58例を対象として従来の診断基準に該当する抗リン脂質抗体(抗カルジオリピンIgG/IgM抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント)およびネオセルフ抗体の血清抗体価を測定した。
バイオマーカーとしてTAT、AT3とD-ダイマーおよびAPTTにより凝固・線溶状態を評価した。
さらに、その後の妊娠転帰との関係について検討した。
【考察・結果】
従来の抗リン脂質抗体陽性は10例、ネオセルフ抗体陽性は6例であり、その中で1例が両方の抗体が陽性であった。
28例で血漿中のTAT濃度の上昇が認められ、全例でAPTTは正常範囲であった。
TAT上昇の頻度は、従来の抗リン脂質抗体陽性群で80%(8/10例)、ネオセルフ抗体陽性群では83%(5/6例)であった。
ネオセルフ抗体陽性例では、6例中5例(1例 未測定)でTAT濃度が上昇していた。
ネオセルフ抗体価が高い症例ほど、TAT濃度も上昇している傾向がみられた。
TAT未測定例を除いた症例について解析したところ、ネオセルフ抗体陽性例では100%でTAT濃度が上昇しており、陰性例(45%)と比較して有意にTAT濃度の上昇している症例が多かった(χ二乗検定 p= 0.03)。
TAT未測定例を除いた症例について解析したところ、従来の抗リン脂質抗体陽性例では75%でTAT濃度が上昇しており、陰性例(50%)と比較して有意な変化は認めなかった (p=0.19)。
ネオセルフ抗体陽性例は、いずれも流産回数0,1,2回と、臨床的APSの診断基準は満たしていなかった。
【結論】
ネオセルフ抗体は、従来の抗リン脂質抗体とは独立した抗リン脂質抗体であり、従来の抗リン脂質抗体検査パネルでは検出できないAPS症例をピックアップできる可能性がある。
有意にTAT濃度と関連しており、従来の抗リン脂質抗体検査以上に凝固亢進状態を表している可能性がある。
ネオセルフ抗体は、流産回数が3回以上という臨床的なAPSの診断基準を満たしていない症例でも陽性となっており、こういった症例に対する治療方針に対しては今後の検討課題である。
なお、演題の内容は、院内に掲示しますので、興味のある方はクリニックにいらしてみてください。