東京大学産婦人科大須賀穣主任教授が会長をされた学会で発表し、日本語論文になったネオセルフ抗体の研究成果について、シリーズで報告しています。
この論文は愛育病院との共著論文で別刷りもクリニックにございます。
先日は東京大学産婦人科廣田泰教授の就任祝賀会でした。
東京大学医学部長や東大病院長、大学院生殖発達加齢医学講座に関係する小児科や老年内科の教授など多くの先生方が会場にいらっしゃっていました。
廣田教授とはスタンフォード留学前の少しだけの間でしたが大須賀先生の研究グループで、廣田教授と同期の国際医療研究センター大石元産婦人科部長とは矢野哲先生の研究グループで、仲良く学んだものです。
さて、わたしの研究課題は不妊症に関わるものでしたが、情報伝達系についての研究テーマだったので国立がんセンター東病院や国際医療研究センター、長崎大学医学部解剖学教室などに実験手法を学びに国内留学をして、大学に戻ってからも病棟業務が終わってから医局のラボで研究を続けていたものです。
博士課程の研究指導教官の矢野哲先生からは、英語論文の書き方まで細かく指導を受けました。
5回目は【考察】の後半部分の途中までを紹介します。
ネオセルフ抗体検査の有効性について
〇松見泰宇1、藤井達也1、百枝幹雄2
まつみレディースクリニック三田1、母子愛育会総合母子保健センター愛育病院2
【考察】
不育症患者におけるβ2GPIネオセルフ抗体の発現率はおよそ20%程度であることが報告されている。
β2GPIネオセルフ抗体は上記のリスク因子による諸症状を抱える患者及びリスク因子不明の患者についても一定数の発現がある。
抗リン脂質抗体は不育症のみならず不妊症との関係も指摘されている。
抗リン脂質抗体は、着床期において微小血栓により着床環境局所の血管障害を誘発し、受精卵に対する子宮内膜の受容能を減少すると考えられる。
また、抗リン脂質抗体の存在により体外受精胚移植患者では着床が阻害されている。
体外受精不成功例の検討では、抗リン脂質抗体陽性、特に循環血液中の抗リン脂質抗体価が高い、血栓症既往を持つ患者を治療する場合には、排卵誘発を行う初日から抗凝固療法を行う必要があると報告されている。
体外受精胚移植を行っている患者においては、エストロゲン上昇などのホルモン環境の変化が凝固亢進状態をもたらす。
体外受精の患者集団においても、凝固亢進は着床不全のリスク因子であると報告されている。
このように、体外受精不成功例の症例では原因を特定し、個別化した治療を選択することが体外受精の成功率を大幅に改善するためには重要です。
今回の症例では不育症スクリーニングにより、凝固因子については、凝固第12因子、プロテインSやプロテインCの抗原量や活性を検討した。
その結果ネオセルフ抗体のみ陽性であり、人工授精から体外受精に治療をステップアップして、生児を得た。
活性化プロテインC抵抗性(APCR)が原因の不育症患者において、体外受精において低分子量ヘパリン(LMWH)およびLDA投与による抗凝固療法を併用することが有効であると報告されている。
今回の検討では、患者プロファイルのうち内分泌学的要因のバイオマーカーとしては、HbA1cなどの糖代謝に関するものと甲状腺機能に関与するホルモンのみ検討した。
文献的報告によると、肥満と血栓症は、いずれも体外受精後の流産のリスクを上昇させる。
また、血栓症と肥満の併存によってリスクは大幅に増加し、特に妊娠10週目頃より高くなると報告されている。
長くなりましたので、【考察】の続き、【結論】などはシリーズ最終回、日本産婦人科学会東京地方部会会誌(6)でご紹介します。
英語論文の方もすでにこちらの方では何もすることがない状態になっています。
早く日の目をみるといいなあ。